ANA国内線【PR】
2011年 08月 09日
道しるべ




仕事で長崎へ行った時、空き時間に
ある美術館へ行こうと思った。
その日の長崎は台風の暴風域に入っていて
傘を差してもびしょぬれになった。
場所がよくわからなくなって美術館に電話をすると
おじさんの声がした。

「すみません、近くまで来ているとは思うのですが
 場所が分からないんです」

『あぁ、今○○なんですね。
 そこをもう少しまっすぐに来て見上げて下さい。
 窓から顔を出しておきます、
 とても大きな顔なのですぐにわかるでしょう』

「・・・あー、はぁ。
 ・・・私もとても長い顔なのですぐにわかると思います」

電話を切った。
びゅーびゅー雨と風が降りしきる中
少し歩いて見上げると、
大きな顔と長い顔の目が合った。
無言で会釈し合った。

大きな顔が淹れてくれた珈琲のカップには
可愛い形の葉っぱが敷いてあった。
いつもこうしているのかなぁ。
葉っぱも、道案内も。
長い顔は、そんな大きな顔に会えて嬉しかった。
展示より貴重な感じもした。




















# by ennuichocolat | 2011-08-09 00:00
2011年 07月 30日
“ボランティアとかきらい”




学生の頃、ボランティアにとても抵抗があった。

どうしてだろう。
何かをしても
何も返ってこないなんて。

そんな感じだったと思う。
こんなに嫌だと思うなら逆に何かあるんだろうと
気の進んだ時にだけ時々やった。
だからってすぐに
何が解るでもなかった。

ある冬の日、
小児がんの子供達のクリスマスパーティに参加した。
サンタクロースも登場する、宴も最高潮の頃
静かに部屋に入ってきた車いすの子供達がいた。
私はそこで
初めて笑うこともできない、体力を失った子供を目にした。

きっと内側ではいろんなことを感じているのだろう。
でも痩せ細った小さな身体と力ない目、開いたままの唇、
その老人のような風貌と小さな身体の不釣り合いな現実に驚いた。
そして次に私の目に映ってきたこと、
それはお母さんたちだった。
美しかった。

何なんだろう、こんな時に美しいと思うなんて。
お母さんたちは疲れ果て、それを通り越して、
どんな思いをしたって
現実は現実を刻むようだった。
洋服も
「今日はこれが着たいわ」
「今年買ったばっかりなの」
なんて感じが全くしなかった。
薄化粧で、静かな感じがして、疲れ果てて、
でも今大事なことに迷いはない感じがした。
そんな中子供に向ける
笑顔や言葉、そして普通の時間。

昔、誰かが言っていたことを思い出した。
“本当に辛い人は泣かない”

帰りの電車の中、私は友達と
今日見たことについてずっと話していた。

その頃にはもう
“ボランティアとかきらい”
という言葉は力を失い、
小さな世界が壊れた恥ずかしさの後には
妙な清々しさと新鮮な視線があった。
この頃からボランティアは
“何も得ることのない”
ではなくなった。
痛くて強い帰り道になった。



















# by ennuichocolat | 2011-07-30 04:58
2011年 01月 07日
『少年の呟き』







十歳くらいだろうか、
見知らぬ少年が喫茶店で話していた。

少年
「いいなぁ、僕も写真やりたい。
 白黒写真がいい」

カメラウーマン
「じゃ、知り合いで白黒写真の先生をやっている人がいるから
 紹介しようか」

少年
「…ううん、いいの。
 白黒写真は光と影があればもう、
 それでいいの」






















# by ennuichocolat | 2011-01-07 00:00
2010年 12月 23日
『乙女危機一髪』 おまけピンクページ






野生のイルカと泳げるという東京・御蔵島で、
そのツアーに参加した。

水深三十メートルの群青の海はもはや澄みすぎて怖いんですけど。
イルカの群れが波乗りしながら近づいてくる。
船の上から見ると、その背びれは鮫のよう。鮫でしょう?
「来たよー、飛び込んでー!ほらー!」
ガイドさんが叫ぶけど、色々怖い。
もたもたしていると
「大丈夫大丈夫!ほら行っといで!」
とのお言葉。
もはやセルフ洗脳しかない、
怯えるように海に入った。

目の前で何が起こっているのか
理解するのに数秒はかかったと思う。
一匹のイルカがすーっと近寄ってきて、
海中で私と同じように垂直に静止している。
両ヒレを広げ、少し開いた口は
まるで微笑んでいるみたい。

「…すごい、イルカって野生でもこんなにフレンドリーなんや!
 未知との遭遇!
 生命に境界なし!
 大自然って素晴らしいのね」

そう思ったのも束の間、すぐに恐怖にさらされた。
何故か。
よーく見るとそのイルカは雄だった。
何故わかったのか。
下半身(たぶん)から男性的なものが上向きに突き出している。

でもまだ両ヒレを広げて止まったまま、
まるでウェルカム状態で微笑んでいるよ。

恐怖の大海に放り出された生娘は、
「半漁人みないなのが生まれてくるかも!
 科学者!研究!この子の父親はイルカです!
 そういえば何かの本に
“イルカはセックスが大好きです ”
 って書いてあった!!!
“水中では精子は死なない”
 ってのも何かで読んだ!!!
 あのウェルカムみたいなの何!?
 私と何かできると思ったわけ!?」
胸中支離滅裂に絶叫しながら船によじ登った。















# by ennuichocolat | 2010-12-23 00:00
2010年 11月 11日
『その大きさ』





屋久島に晴耕雨読という民宿がある。
ここの、ちょっと都会的で素敵なおじさんに九州出身だと告げると
その瞳が少し緩んだ気がした。

学生の頃上京し、少々ブイブイ言わせていたそのおじさんは
急遽屋久島にUターンすることになった。
一度都会の空気を吸ってしまい、戻ってきてからの色々もあって
かつて生まれ育ったこの島に馴染めず、悶々とした日々が続いた。

そしておじさんは、息抜きに九州を旅した。

「阿蘇にさ、大観望ってあるよね。
 あそこに立つと阿蘇山大噴火で陥没した外輪山が
 百キロ四方で見渡せるでしょ。
 屋久島も周囲がちょうど百キロなんだよ。
 それ見てたらさ、
 “なーんだ、俺が悩んでることの大きさなんてこれぐらいか”
 って急に楽になって、その時から屋久島に腰据えられたんだよ」

私もいつか
自分の内側に広がるその大きさを眼にしてみればいい。
眼にして、息をして、見渡して、
泣くなり笑うなりすればいい。

おじさんは私に
そんな定規を見せた。















# by ennuichocolat | 2010-11-11 00:00


< 前のページ      次のページ >